メキシコシティからパチューカへ向かう前日、
メキシコシティのバスターミナルで
パチューカ行きのチケットオフィスを
探していたら、「Can I help you?」と、
背が小さくて、白髪で赤ワイン色のシャツを着た、
品のいいメガネをかけたおじさんが話しかけてきた。
なんとなく、ぼくの中の教頭先生のような人だ。

メキシコはスペイン語圏なので、
英語喋れるの珍しいなあと思いながら、
パチューカ行きのバスオフィスを尋ねた。

教えてもらった場所でバスチケットを
ぶじに買い終え、宿泊するホステルへ
向かうために電車に乗ろうとすと、
さっきの白髪のおじさんと遭遇した。
同じ方向のようなので、一緒の電車に乗る。

どうやら、ぼくが乗り換えしようとしている
線路が止まっているようなので、
「違う行き方したほうがいいよ」と
アドバイスをもらう。
スペイン語でアナウンスされていたらしい。

おじさんは、言語学者で、メキシコにある
スペイン語ではない古くからある言語を
残していくために活動をしていると言う。
ぼくに丁寧にスペイン語を教えてくれて、
とても感じのいい人だ。

1回目の乗り換えの時に、歩いていると、「ごめん、わたしは脚がわるいから、
急いでいたら、先に行ってくれ」とおじさんが言う。

たしに、脚がわるいような歩き方をしている。
そう言われて、置いていくわけにはいかない。

2回目の乗り換えのときに、実は脚がわるいのは、
今日、タクシー強盗にあったからなんだと
おじさんが告白する。
メキシコ北部で乗っていたタクシーの運転手が、
彼の脚をナイフで刺したのだと。
メ、メ、メ、メキシコおそろしや。

お互いの乗り換えする線路に到着して
バイバイしようとしたとき、
「ほんとう、こんなこと言うのは
恥ずかしいんだけど、
バスのチケット代を恵んでくれないかな?
強盗にすべて盗られてしまったんだ」
おじさんが静かに言う。

「来たー」ぼくはこころの中で言う。
せっかくメールアドレスも交換したほど、
いい出会いだと思ったのに、そう来ますか。

おじさんが請求してきた金額は約2000円、
けっして払えない金額ではない。
「(ぼくからお金を)もらえなれば、
指輪を売るしかないなあ」と言う。

おじさんがほんとうに困っているのか。
それとも、そういう手口をつかって、
人を騙しお金を稼ぐ人なのかはわからない。

うーんと考えたけど、ぼくは断った。
すこしの罪悪感を感じながら。

ぼくが日本でなにか困ったときに、
通りすがりのメキシコ人に助けを求める
よりも先に、言語が通じやすい日本人に
助けを求めるだろうと考えた。

さあ、どっちだったんだろうか。
真実は、わかりません。

それでは、今日も、明日も、明後日も、いい1日を。
旅をしていると、こういう選択にも迫られる。

このときの場所/メキシコ メキシコシティ
現在地/グアテマラ アンティグア

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