マラウイのムズズからバスで北上して
タンザニアのムベヤへ移動した。

マラウイでは、危ないことはひとつもなく、
おだやかに過ごすことができた。
快適に過ごせたのも、マラウイ人の
あったかい気質のおかげだ。
タンザニアへのバスに乗っていたときも、
人のやさしさに触れた。

国境を超えて、バスが3時間くらい走り、
停車したタイミングのこと、
「あんた、朝から何も食べてないじゃない」
とひとつ後ろに座っていたおばちゃんが
声をかけてきた。

アフリカでは、バスが停車すると、お菓子や
飲み物、たまに肉などを抱える人がバスに
近づいてきて、それらを窓越しに売りにくる。
乗客がほしいものがあれば、
窓を開けて声を掛け、買う仕組みだ。

おばちゃんは、ぼくが売り子さんが来ても
買わないでいたのを、後ろの席から見ていて
心配してくれていたのです。

もともとバス会社のスタッフから早朝に
タンザニアの目的地に着くと聞いていたので、
レイトのわるい国境でお金を両替せずにいた。

「タンザニアのお金をもってないんだよね」
とおばちゃんに伝える。

すると、やさしいおばちゃんが
「じゃあ、わたしが払うわよ。
好きなジュース買いなさい」と言う。

息子でもなんでもないぼくにこんなことを
言ってくれるなんて、、、
やさしさに感動しながら
「ありがとう、もうすぐ着くから大丈夫。
ムベヤで降りるんだ」と言う。

すると「えっ!?ムベヤに降りるならここよ。
ここで降りなさい」と言われ、
「えっ、ありがとう」と言ってバスを飛び降りた。
ちなみに、バスのスタッフは何も教えてくれなかったので、
おばちゃんのおかげで目的地に着けた。

ありがとう、おばちゃん。。。
ありがとう、マラウイ。。。
マラウイに後ろ髪を引かれる思いだけど、
さあ、やってきたぜ、タンザニア。

ムベヤは経由地と考えていたので、
次の日のバスチケットを買い、
バスステーションに近い宿を見つけた。

荷物を置いて小道を歩いていると、
額に大きい絆創膏を貼っているタンザニア人
のおじちゃんが話しかけてきた。

サファリのツアーの勧誘だ。
そんなことよりも額の傷が気になったので
「どうしたの?その傷?」と聞いてみた。

すると「ああこれか?最近、石で殴られてね」
鳩のフンが落ちてきたんだよ、くらいの
テンションで話すおじちゃん。

どうやら、お金持ちだと思われた彼は、
朝4時に道を歩いていると、
後ろから石で殴られ、床に手をついて
「なんだ?」と振り返りったところを
正面からもう一度やられたようだ。

そのあとは、匍匐前進でなんとか家まで
逃げてきたのだと言う。
なんて、おそろしいんだ、タンザニア。

今まで石を凶器と考えたことなかったけど、
石を凶器と捉えると、そこらじゅうの道に
凶器が散らばってる。世界は凶器の山だ。

「生きていてよかったね、お大事に」
と言って、そのおじちゃんとは別れた。

夕飯を食べて、暗くなる前に宿に戻ると、
受付の前のソファーになぜか額を怪我した
おじちゃんが座っている。この宿の土地は、
おじちゃんの土地なんだと。

あまり聞きたくもなかったけど、
おじちゃんのサファリの勧誘を聞いてあげて、
「じゃーね」と部屋に行こうとすると、
おじちゃんが突然、「金をくれ」と言う。

耳を疑ったぼくは、「なぜ?」と素朴に質問した。
「なぜって、サファリのこといろいろ
説明してあげただろ」と言う。

「聞いたけど、ぼくにとっては知ってた
情報だったし、あなたの会社の宣伝を
聞いただけだから、もちろんお金は払えない」
とぼくが言う。

「じゃあ、ええと、あれだ、うん、治療費くれ」
と続けざまに言ってくるおじちゃん。
「なんで、ぼくが治療費払うの?」と
この辺りから、眉間にシワを寄せながら質問する。

「治療するお金が足りないんだ」と
土地を所有するおじちゃんが言う。

そのあと、「払え」「払わない」
「払え」「払わない」のやりとりが続く。

無視をして部屋に行けばいいのだけど、
ぼくは真っ直ぐにおじちゃんの目を見て
「お金は他人に請うものじゃない。
自分で働いて稼げ」と言った。

「おれは、強盗になるよりは、
乞食(お金を請う人)になるほうがいいと思うね」
とああ言えばこう言う状態に突入。

こうなるとなにを言っても意味がないので、
「お金は払わないよ。さよなら」と言って、
部屋に行こうとすると、
「地獄に堕ちろ」とおじちゃんが言ってくる。
はあ「お大事に」と「ちゃんづけ」返してほしい。

怒りを抑えながら眠りにつき、次の日朝5時、
外が暗い中、バスステーションへ向かう。
たまたま同じ宿の20代のタンザニア人が
同じ時間にバスステーションへ行くと言うので、
一緒に行くことになった。

歩いているとき彼がぼくに言った。
「ああ、君がいてよかったよ。
ひとりで歩いていると襲われそうだからね」

ああ、マラウイよ。

それでは、今日も、明日も、明後日も、いい1日を。
どうなるタンザニア。

このときの場所/マラウイ→タンザニア
現在地/日本一時帰国

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